
(地平線まで、ただ、森の海が続いている。)
その日、イキトスに居た。
俺は観光船に乗り込んで大人しく仕組まれたアマゾン散歩を楽しむ気にはなれなかった。
へそ曲がりという奴だ。何時から曲がったかはしらないが、いつか曲がったのだろう。
曲がっていないとは言わない。
。。。
適当に、大通りに、いくらでも並んでいる旅行会社の一つに飛び込んだ。カウンターは空白で物憂げだったが、衝立の向こうのベンチには大きな男が寝そべっていた。が、物音に立ち上がり、目をこすりながら、いかにも迷惑そうに唇を、ぱくつかせた。
ーーなんの用よ、あんた。昼寝時間だよ。
ーーこのあたりで、ヘリかなんか飛ばしてる所、無いですかね。
ーーヘリはないね、ああ、でも、セスナならあるよ。一人だけ河べりで水上機飛ばしている変なのがいる。
ごそごそと、安っぽいメモ紙にアドレスと電話を書き込んで俺に放り投げた。サービスという物の概念が違う、向こうとこっちでは。
ーーアマゾンツアーって、やってるんですかね、ここも。
男の目が輝いた。自分の仕事領域だ。適当に話を聞いて、名刺をもらって退散した。酔狂にやるなら此処でと決めて。帰り際にパンフレットをくれた。此処は、イキトス、一応はアマゾンの観光都市だ。
。。。。
鉄の骨組みの2階建ての建物の2階にある古ぼけたバーで、道際に座り込んでビール一杯をひっかけて、この世の中を憂い、そして、勘定を済ませて、通りに出た。
6畳一間程度の狭い事務所には,小太りの叔母様が座っておられて、そして、煩かった。酔狂な飛行気乗りは今は居なくて、2時間後に来いと喚きたてる。またまた、サービスの質が変化していて、劣悪になる一方だった。
。。。。
見上げるような大男が、人懐っこい顔で俺を迎えた。190cmはあろうかという大男で、バスケの選手と見まがうばかりだった。
ーーで、どこ飛ぶの?
ーーアマゾンを上から見て、写真撮るだけなんだけど。
ーーなら、いいが変な荷物はないよね。
ーー変な荷物?
ーー隣がコロンビアでさ、時々、変なのがね、、、で、、このまえ、間違えられて国境で
ロケット砲食らって、一機おしゃかになってさ、、
なるほど、流石に南アメリカだ、日本じゃ聞かないせりふも混ざっている。俺は、500ドルで飛べるところまで、気に入ったらもっと飛ばしてもらう。その場合は、10分幾ら、と決めて決行日を明日と決めた。
。。。
セスナなら運転したことがある。
3時間ほど教習所で飛んだ。それ程難しい乗り物でもない。
要するに空を飛ぶ自動車だ。運転席も同じようなもので、計器があってハンドルがある。ちょいと違うのは行く方向が立体だということで、地面の上だけの平面ではない。で、ハンドルを押し込むと下降して、手前に引くと上昇する、という要素が加わっている。右へ行くのか左へ行くのかは、足元のペダルの右か左を踏むか、物によったら、ハンドルを回す奴もあるかもしれない。
アクセルは計器版から丸いスロットルが飛び出ていて、手でレバーを引いたり押したりで、引けば速度が上がって、押せば速度が落ちる。着陸が95%のお仕事で、離陸は4%、空をとんでいるのは1%程度で、飛んでいるだけなら1時間も飛んでいれば、誰でも慣れて飛ばせるようになる。
。。。。


次の日、河の向こうに掘っ立て小屋が建っていた。此れでも、立派な飛行機会社だ、この辺りでは、という、風情があった。もうちょい、せめて看板ぐらいは立派に書いておいて欲しかったが,俺は謙虚で文句は言わない主義だ。黙って、間違っても苦情は言わないで、ボートで向かった。
想像以上の素敵な水上セスナがスタンバイオーケーで待っていた。勿論、大男も。建物の横には、かってはセスナと呼ばれた物の残骸も泣いていた。昨日の話しは、どうやら嘘ではないらしい。アマゾンらしく、足はタイヤではなくスキー状の浮きを履いていた。滑走路など無いジャングルでは、河こそが滑走路で、アマゾンには河など嫌と言うほどある、で、ここじゃ、便利な乗り物には違いが無い。


操縦士、兼、オーナー、兼、整備士、兼、営業と並んで立つと、まったく嫌な事に、子供と大人だった。一応は記念写真を撮ったが、俺は必要以上に肩意地を張っていたようだ。張ったところで、身長は伸びない、が、気持ちは伸びていた。はずだ、、、、
。。。。
飛行機は飛び立った。
そして、ただ河と森だけが視界に広がった。それだけだった。あっけない風景だ。飛行機の散歩は平面的な風景の場合は、この<此れ>だけだった、でしかない。砂漠の上空を飛べば、単純に、砂漠だけが広がっている。水の国の上を飛べば、ただ、水没した大地が開けている。
平凡で明快で飽きの来る風景。一つ、大きさだけは実感できる。このリアル体験は写真では味わえない。視界すべてを360度多い尽くす、空と、森と、河。此処が好きだ。それだけの為に此処まで足を運んでいる。その意味では、アマゾンは圧倒するだけの十分な巨大さを備えていた。


(上空から見た、ジャングルロッジ。森の中にはり巡らされた廊下が見えている。)

(河は蛇行に蛇行を繰り返している。)
ともかく、適当に、シャッターを押し続けたが、その日、光は悪かった。ガラス窓は汚れていて、そして、空は曇天だ。光が少ないと、シャッタースピードが落ちる。高速飛行機からはピントが心配だった。1/125秒以上のスピードは望めないかも。といって、俺は落胆はしていなかった。素直に単純な緑のジャングルと、濁った河を楽しんでいた。上空から見ればアマゾンもただの緑にしか過ぎない。陸を歩き始めると緑のカーテンが視界を遮って、四苦八苦の行軍になるだろうが。
ーーみなよ、河の色が違うだろう。白い河と、茶色の河が合流していくのさ。アマゾンの本流にね。
よく見れば、確かに色は違っていた。
ーーおい、どっちへ飛べばいいんだよ。こっちは、どっちでもいいけど。
ーー何処でも良いから、適当にとんでくれりゃ、それでいいさ。あと、きっちり500ドル分で終わることにするからよろしく。
ーーアイアイ、サ〜〜。
操縦士はふざけて、そして、お前、馬鹿じゃ無いの、という目で俺を見た。少しは、この、単純で単調なフライトに、余興を見つけようとはしてくれた。サービス精神が旺盛なのは、受付の叔母様とは違った。
ーーあそこに見えているのが、ジャングルロッジだ。糸のような木の上に張り巡らした廊下が見えるだろう、そっち、左手だ。
かすかに糸が見えて、少しは人の手が緑の中に入っている。
。。。
飛行機乗りは、何処でも、陽気だ。サービス精神に溢れている。チュニジアで乗ったヘリは、欠伸の出る砂漠フライトに、2回転宙返りとか、スターウオーズ顔負けの谷間遊覧だとか加えてくれて、おかげで俺は吐く寸前まで胃の酸が増加した。
ーーちょいと、河の上を飛んでみるか
ジャングルを縫ってゆく河の上を、セスナは低空飛行をした。だからといって、度肝を抜かれるほどには素人でもない。俺も、宇宙戦争を楽しんだ。
。。。。
ちょいとした、アマゾン空中浮遊も終わって、俺は、昨日の旅行社に出向いた。
今度は、地上をちょいとジャングルに入ってみたくなって。マクロとミクロという奴だ。
飛行機野郎を教えてくれた、あの男が、喜んだのは言うまでも無い。
ーーーーーーーーーーーー
DATA
適当に旅行社に飛び込んで飛行機会社を聞けば教えてくれるはず。
こういうところでは、料金は交渉次第になる。10分ぐらいの単位で幾らなのか、交渉して乗ってみると面白い。勿論、行き先があれば近くまで乗せてくれる。